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No.94 全日本選手権ロード(オリンピック選考会)

日本のロードレースで最も重要なレース、最もステータスの高いレースは、全日本選手権ロードと言ってもいいだろう。
ジャパンカップやツアー・オブ・ジャパン、そしてその他のロードレースも重要なレースはいっぱいあるが、日本一、そして1年間ナショナルチャンピオンの証であるチャンピオンジャージを着用できるという点で、俺自身も最も大事なレースだと考えている。

094-1.jpgただ俺の場合は少しだけ他の選手とレースの位置づけは違うかもしれない。
昔はこのチャンピオンジャージが欲しかった。
特に海外で活動しているときは、各国チャンピオンジャージを着用するということが一つのステータスで、注目度も違うし、メディアの扱い方も違う。そして招待レースのスタートマネーも違う。
タイトル欲しさにわざわざ日本へと帰国したが、結局一度も縁がなかった。
俺のピーク、もしかすると俺自身のバイオリズムがまったく6月には合わないのではないか?と思うほど、結局一度も満足した走りをすることは出来なかった。

今回の全日本選手権はいろいろな意味で今までとは違う気持ちで迎えた。
なぜかあまり欲が沸いてこなかったものの、これが最後の全日本選手権、恥じない走りでゴールまで辿り着きたかった。
そして2枠といわれているオリンピック代表。
もう既に連盟サイドでは候補はある程度確定しているかもしれない。
しかし発表されていないのだから捨てることもない。
全日本選手権はじめタイトルのかかった大舞台ではすこぶる強い橋川、そして若い選手に何か一つでもアシストできるような、自分ではあまりプレッシャーのない状態で広島入りした。

今シーズン、チームとしては出だしからあまり良くない。
熊野やツアーオブジャパンと、まったくといいほど成績を残せていない。
安原監督からの指示は、橋川を逃げグループに入れてチャンスを作り、万が一ゴールに縺れ込む場合に備えて俺は常に集団で待機というもの。
過去オリンピック選考会を兼ねた全日本選手権では、毎回といっていいほどに展開は意外性に飛んでいる。
だから集団でスプリントになっても不思議ではない。だから俺は与えられた仕事をこなすことに集中しよう。
橋川もこの日に備えてコンディションを上げているようだし、俺としてもある程度役割を分担できることは有り難い。

094-2.jpg距離がほぼ200kmということで展開は遅くはないが落ち着いている。
まるで他国の選手権のように、集団は塊のまま2周目に突入する。
ここで集団から10名以上が飛び出す。
この逃げには各チームエース級が入り、集団はパニック状態。
橋川が入り込んでいるもののその他のメンバーはいない。
他のチームを見てみると、スキルシマノは状況的に静観できる立場ではなさそうだ。
別府に土井、鈴木とマークすべき選手がすべてここにいる。
距離は長いが、あまり悠長に構えていられる状況でもないはずだ。
しばらくすると集団は徐々にスキルシマノが追走を開始する。

1分ほどのタイム差が詰まらない。
スキルシマノのメンバー、特に別府が焦っているのがわかる。
オリンピックを考えればここは振り出しに戻さなければならない。
前を行くメンバーとの追いかけっこで追走グループはどんどん消耗。
およそ2時間後、ようやく前を射程圏内に捉えた。
集団も主要選手は残っているものの、雰囲気的には全体的にあまり
余裕を感じない。
先頭グループを登りで吸収しようとしたとき、カウンターでの動きで一列の状態で吸収した途端、そのまままたすぐに分裂。
結局数人を入れ替えたのみで、ほとんど先ほどと同じメンバーでの先頭グループを逃してしまった。
ディフェンディングチャンピオンの新城が脱落し、飯島が入れ替わる以外はほぼ同じメンバー。
俺は別府、そして宮沢を意識しすぎた。
彼らのいるグループが「集団」であり、彼らの前は逃げグループ。
俺のいるべきところではないという判断だった。

094-3.jpg集団の中ではオリンピックに近いと言われているメンバーがけん制してスピードが一気にダウン。
何か互いに言い合っている。
アジア選手権のメンバーで先行しているのは西谷(愛三)のみ。
残り3人はどう動くんだ?
俺の注目はそこにいきすぎたか。気がつくと集団は止まりそうなスピードで走っており、先頭グループとのタイム差は一気に開いた。
橋川の成績を考えれば、集団が完全に射程圏外に入ることは望ましいとも言えるが、複数入っているチームが後半に攻撃を開始すれば、すべて一人でさばかなければいけない。
ほぼ国内のトップレベルの選手たちすべてを相手に回して今の橋川では負担は大きいかもしれない。
常にどこかが追走して後ろからプレッシャーを与え、先頭グループでも主導権を握りたいチームを中心に逃げをオーガナイズしてくれた方が、橋川には都合がいいはずだ。
しかしこの状況では集団にその役目を期待できそうにない。
あとは橋川の頑張りに期待するしかない。

集団のペースがあまりにも落ちてしまったため、何人かの選手が抜け出す。
それがグループになるという雰囲気はなく、集団は相変わらずオリンピック代表に近い連中たちの駆け引きの場を化している。
俺もチームメートの松村と抜け出し、先に抜け出していた選手と合流。その前を走る岡崎(梅丹本舗)と合流すべく松村らとペースを作っていく。
しばらくすると後ろから新城が単独で追いついてくる。
後ろは「始まった」のか???
とりあえず俺は新城と一緒にペースアップ。ここで俺たち2人だけになる。
前とは5分ほどの差だったのが3分台に縮まった。
前を行くグループの梅丹の選手はきっとペースを一定で様子をみるはず。そこで他の選手は焦ってペースを上げるかもしれない。
橋川はその隙間でついていくだけでいい。

後ろからはまったく集団の気配がない。
新城一人を逃がしたのか?それで別府はいいのか?
少し不思議に思いながら、新城のかなり速いペースに苦しみながらも考える。
前にようやく岡崎が見えたそのとき、俺の限界がやってきて千切れてしまった。
しばらくすると今度は単独で真鍋(ニッポ)が合流。
しかし回復しきっていないため、真鍋からも離れてしまった。

しばらくすると集団は若干ペースアップして追いついてきた。
あまりにも悠長に構えすぎたか、このままだと集団ごとタイムアウトになるらしい。
そうなるとオリンピック代表選考会である以上、オリンピックに近い選手たちには困るはずだ。
もう少し早いタイミングで動いてくれればよかったのだが・・・
どこのチームも主導権を握れるような状態ではない。
スキルシマノは前半の追走で別府と土井以外を失い、梅丹は福島らが前で展開している。
愛三も西谷と廣瀬が前。集団自体も30人はいない状態だ。

前に迫っていた新城も、やはり前の選手には好まざる客、先頭グループは活性化して新城の追い上げもここまで。
そして橋川も攻撃に耐えられず離れてしまった。
俺は追走は厳しかったが、集団の中であればなんとか大丈夫。
もう前に追いつくことはないだろうが、このまま集団でゴールを目指す。

レースは最終的に4人に絞られて野寺(スキルシマノ)が井上(ニッポ)福島晋一(梅丹本舗)をスプリントで破って優勝。
橋川は5分ほど遅れたものの10位でフィニッシュした。
俺はスプリントで集団の2番、14位でのゴールとなった。
登りきってからもやや登り基調のゴールである広島はスピードが乗らず難しい。
先行するも最後は別府に差された。

オリンピック選考会となった全日本選手権は毎回「魔物」が潜んでいる。
もちろん実力がなくては勝てないし、勝者はそれに相応しいはずだ。
だが魔物の餌食になってしまう選手も少なくない。
俺は安原監督の指示に従い、特にこの結果に不満はない。
だがレース全体をもっと大きなものとしてみた場合、これが例年の全日本選手権ならきっと違った展開が待っていただろうし、もしかすると橋川にもチャンスがもっと傾いたかもしれない。
もしかすると俺にももっと何か違うチャンスがあったかもしれない。

これで俺のレースがすべて終わったわけじゃない。
また明日から気を引き締めて、新たな気分で自分の狙うべきレースで勝てるように頑張っていくだけだ。

Photo:Hideaki TAKAGI

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