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No.067 ジョラジャ・マレーシア第4ステージ

第3ステージ終了後、ホテルに到着。
エレベーターを降りて部屋へと向かう途中、異常なほどにカビ臭く涙と吐き気が止まらない。
このホテルで一晩を過ごすのは非常に憂鬱、というか不安に駆られる。大丈夫か…
しかしあまりにも耐え難い匂い。エアコンも信用できないので窓を開けられるだけ開け、寝るとき意外はドアも開けて換気する。

スタートは今までのステージよりも若干熱さを感じる。朝から早くも頭から水を浴びせる。
俺としては12月からの遠征で十分熱さに慣れてきているし、ここらでそろそろ熱中症になりかねない熱さが欲しいところだ。そのほうが熱さに慣れていない選手には負担が大きいはずだ。

昨日のミーティングでとにかく複数のメンバーで逃げグループに入り込むことを安原監督から言われる。
このツアーでは総合優勝とか区間賞を目標に渡航したのではない。本来の目的はまずは今シーズン確実に戦うため実戦を通じてのトレーニングだ。
それは集団の中でただ「サイクリング」していくことがトレーニングじゃない。
勝負すること。そこで躊躇せずに走ることがトレーニングになるはず。
安原監督も失敗してもかまわない、と…
俺も安原監督の作戦には賛成だ。
昨日のステージでも辻兄、そして松村が入り込んだことで集団の中で俺たちは非常にリラックスして走ることができた。そして前でも非常に多くのことを学んだに違いない。
俺も可能な限り逃げを決められるよう、序盤は集中して挑みたい。
そう考えれば、気温が高いほうがペースが落ちてくれ、うまくいけば抜け出しが容易になるはずだ。

序盤から俺も逃げる気持ちで攻撃開始。
何度も逃げが決まるか?という状況になるも、みんな逃げたいのは同じ。そして吸収される。
そして何回かの撃ち合いの後、10人ほどの逃げ。ここに向川も入る。あとはリーダーチーム及び区間賞が欲しいチームが追えばいい。
振り出しにしたいデンマークやジャイアントなどが追走開始。30秒ほどのタイム差で進んでいく。まだリーダーチームは動かない。俺は無線で向川に何度も「この10分を耐えろ!もう少しの辛抱だ」と檄を飛ばす。
踏んでも踏んでも離れないことがある。でも前だけがきついんじゃない。後ろもきつい。

しばらくすると向川が力尽きて逃げグループから脱落。昨日落車したことで本来のパフォーマンスを発揮できなかったのか単独で遅れてしまう。チームとしては最悪のパターンだ。
あとは次のチャンスに備えて、集団の中でおとなしくするよりないだろう。

リーダーチーム、ディスカバリーマルコポーロが集団の先頭に出て追走開始。
前のメンバーを危険と考えたようだ。
とにかく前の逃げメンバーを捕まえてくれるほうが良いに決まっている。そしてもう一度振り出しにして…
常にタイムギャップは1分ほど。直線では前は見えている。
そして1時間ほど追いかけっこがあった後、集団は一気にペースダウン。後で知ったのだが
ディスカバリーマルコポーロはスプリンターのコウデントソフが落車に巻き込まれる。そのため復帰を待ったようだ。
この動きが集団を完全に止めてしまう。そして熱いことが集団のペースを落としていく。
動きが裏目に出て行く…

残り80キロほどでタイムギャップは7分半。それは致命的だ。
なぜここまで他の総合を狙うチームが追わないのか…
そしてようやく重い腰を上げたチームが追走開始。しかしあまり速くはない。
そしてこのタイミングで俺の体に異変が生じる…

ラスト70キロ、急に寒く感じ始め腹部に力が入らない。なんだぁ??
無線で安原監督が、今日は集団でのスプリントでは俺のために動くよう指示がある。
最初のうちは俺は頑張らないと、と考えていたが、そのうちとてもじゃないがペダルに力が入らなくなっていく。
チームカーに無線を通じ、あまりの腹痛に耐えがたいと伝えて薬をチームメートに運んでもらう。そしてその後、急に激痛が続き走り続けられなくなり立ち止まる。
チームカーの隊列にはすべて抜かれ、ドクターカーとマトリックスのチームカーのみが待機している…

太陽の眩しさが目に入る。そして時間だけが過ぎていく…
ドクターの渡す液体の薬を口に流し込むも咽てうまく流せない。
そしてとにかく進んでいかないと…苦しいながらもバイクに跨る。
しばらく前にパンクで遅れていた涌本と一緒にゴールを目指す。
集団もそれほどペースが上がっていないのかなんとかなりそう気配。安原監督が車から励ましてくれる。
だがパンクしただけで体はフレッシュな涌本についていくだけでもかなり厳しい。腹部に力が入らないことでスピードが維持できない。
そしてチームカーには前にいるメンバーのサポートに徹してもらうため、俺は途中で単独で自分のペースでゴールを目指す。

ラスト10キロを切ってから本当に遠かった。
とにかくスピードメーターに目をやるたびにどんどんスピードが落ちていく。
ラスト1キロはまったく前を見ることもなく、それこそ悶え苦しみながらのゴールとなった。
ゴール後、立ち止まることもできず、苦痛でそのままホテルへと向かうが、途中で激しく腹痛に見舞われて近くのホテルのトイレへ。
たった1キロしか離れていないホテルへと行くのに1時間以上も要するほど。俺としてもこんなに激しく体調を崩したのは05年、ナショナルチームで遠征したインドネシア以来(その際はメンバー全員が食中毒)、レース中に体調を崩したのは今回が初めてだ。

ゴールしてどれだけの時間が過ぎたのかあまり感覚が無い。
昼食時には固形物を食べる体力は無いが少なくとも空腹であることは感じている。
スープにパンを浸して流し込みホテルの部屋で休む。
今日のホテルは非常に快適。昨日のような異臭もない。
もしかすると昨日のホテルのかび臭さが原因だったのだろうか…

あとからわかったのだが、この日のステージは多くの選手が体調を崩していたようで、中にはゴールまで腹痛に耐えてながら走っていたものもいるらしいし、収容車に乗っていた選手はうっすらとしか覚えていないがぐったりとしていたようにも見えた。
明日走れないということは無いだろう。多分タイムアウトは免れただろう。
だが明日どれだけパワフルに走れるのか、もしかしてゴールへ辿り着けるのか??それすらまったくわからない状態だ。
ただ自分の治癒力を信じて、明日に備えるしかない。

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