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No.041 アジア選手権 個人ロード
2006アジア選手権(マレーシア) 個人ロード 173km
アジアで最も強い男を決めるアジア選手権個人ロード。3日前の チームロードでは思いのほか消耗してしまい、自分が考えている以上に回復しているイメージがない。多分それはインドネシアでの体調不良を押して完走したこ とから始まり、そして高温多湿なことなどが理由なのだろうか。
だがそんな言い訳を探しても仕方がない。やるときはやる。それだけの話だ。
チームロードでは最大限に力を発揮したであろう韓国の朴や、個人タイムトライアルでぶっちぎりの強さを見せたカザフのミズロフ、そして香港の黄金寶、アジアランキング1位に位置するイランの選手などは、今回のレースでは優勝候補だろう。
もちろん三浦監督の選抜された日本チームは、俺の目には誰もがチャンピオンになるチャンスを持っていると断言できる。
先に行われたポイントレースでアジアチャンピオンに輝いた飯島、美浦監督から今回の日本チームの絶対エースを任された福島、アジアチャンピオン経験のある阿部、常に安定した走りを見せる廣瀬、そして俺自身も・・・
今回監督からは福島をエースに、という指示を受けているが「ゴールスプリントになったときは、勝てるという展開を選手同士で確認し、レースを作れ」と、選手全員にベテランらしい走りを期待された。
ス タート後は大きな動きは見られない。炎天下の中を173キロを走る。それに先出の優勝候補たちの動きはみんながチェックしている。ヨーロッパのように優勝 候補もいつつ、そしてアウトサイダー的な選手が優勝をかっさらうと言うような選手はあまり見受けられない。それがアジアのレースであるし、難しいところ だ。
黄金寶などはどこに行っても厳しいマーク。絶好調だろうが絶不調だろうが・・・それでも勝つのだから一流。だがほとんどの選手は厳しいマーク(それもほぼ集団全員・・・)に打ち勝てず、気が付くと大崩れしてしまうのだ。
スピードは上がるが厳しいマークが続く。その中を中盤に20人ほどが先行。
このグループには飯島に福島、廣瀬が含まれ、イランもほぼ全員が含まれているようだ。そして黄金寶、ミズロフ、朴が取り残されるという、日本チームにとってこの上ない展開。
俺は本調子じゃないのを感じながらも、俺に出来ること、出来ないことを頭で整理しつつ集団で来るべき攻撃に備える。
残 り距離は100キロを越えている。しかし先行メンバーが良いので後続のメンバーは焦りが先に立ち、アタックが激しくなる。その都度俺と阿部で動きを封じ込 めるが、残されたメンバーが多いということは、俺たち2人には負担が大きすぎる。そして黄金寶、朴に逃げられるも、ミズロフと第2グループに合流する。
ミズロフはここが重要と考えたか、追いついた勢いでそのままアタック。朴は追従できたものの、俺や黄金寶は置いていかれる。状況は俺たちにとって最悪だ。優勝候補のみが前に追いつこうとしている。
いくら先行グループを4分ほど差が開いていると言っても、エンジン付きと変らない連中。俺は4人ほどで前のグループに追いつくべく、全力で追走開始した。
1時間は苦しんだだろうか。ようやくミズロフらが射程圏内に見えてきた。
俺 たちが後続から抜け出してきたのは情報が入っている。なかなか先頭グループに追いつけない状況で、俺たち後続を待つ方を選択したのだろうか。俺にとっては この上ない。合流した後、ミズロフは再び追走開始。俺は先頭交代しない大義名分がある。先頭には出ない。ミズロフはベルギーで走っていたときの友人でもあ るが、さすがに文句は言わないが彼の背中を見ると怒りを持っているのは分かる。
朴を含めて韓国はレースを振り出しにしたい。追撃グループは韓国とミズロフ、そして黄金寶こそ入っていないが若手の香港チームが2人ほどいる。後半に向けて追い込まれた連中は確実に消耗しつつも前を追いあげている。
確かに4分ほどあった差は、いつの間にか先頭グループの後方を捉えるところにまできている。残る距離は60キロほど。アジアチャンピオンを賭けて、30人ほどの戦士によってレースは振り出しに戻された。
この間、廣瀬が落車により戦列を離れている。福島は数人で集団よりも更に前に逃げを決めている。気になるのはイラン人がかなり多く、主導権を握っていることだ。
飯島が俺に指示を求めてくる。追走?
俺 の答えはノー。韓国は勝つための切り札(朴)を得て、必ず追走する。それにミズロフも火がついているのは明らか。必ず追走組に加わる。そうなると福島のみ しか先行していないが、俺たちが無理にリセットする必要はないだろう。しかし俺の作戦や展望を見る目はアジアが基本じゃない。飯島の方がアジアでは目が利 くかも知れない。それはインドネシアでもそう感じたし、やはりアジアでの経験は飯島の方が上手だ。聞かれたとき咄嗟に「待つ」と答えたが、本当にそれでよ かったのか少し気持ちに不安があったし、勝負事で絶対などない。頭も使うスポーツだけに、相手が俺たちの裏をかくかもしれない・・・
俺の予想は当たった。
韓国、そしてミズロフは焦りからか集団の先頭に立ち、残るバッテリーを使い切るようなスピードで先行するグループを吸収しようとスピードアップ。
俺は的中したことで次に選択できそうな戦術をセレクションしていく。
だ がそれと同時に、俺の中のバッテリーは限りなく残量がゼロ言うことにも気づく。やはりチームロードから体調は少し本調子じゃないのか、脚が痙攣している。 それでも集団に留まれているのは、日の丸のなせる業か。とにかく自分へのチャンスをしんじることもだが、それ以上に今は一緒に日本を背負っているチーム メートに対して、少しでも役に立ちたいと言う気持ちが俺を動かしている。
少しでも集団にいることで、スプリント力があるということで、集団にいる時間だけ相手を精神的にも肉体的にも消耗させられる。
残る距離40キロほど。あと1時間。ここで俺はさすがに体の限界か、両脚とも痙攣し、まったくペダルを踏むことが出来なくなってしまった。
そ して自分が感じている以上に暑く脱水しているのか、ほとんど何も考えられないし、体に力が入らない。日本を代表して来ていなければ、確実にここで俺は自転 車を降りていただろう。もうこの時点で俺のできることはすべて終えていたし、そういう意味では俺のレースはここで終了していたからだ。
完 全にサイクリングモードで走っていると後方から集団が合流。集団を抑えてくれていた阿部に労われるも、せっかく前に追いつきながら結果には結びつかなかっ たことは正直申し訳ない気持ちだが、自分の出来ることはやったつもりだ。あとは何度も千切れそうになりながらも、集団内でゴールを越えた・・・
前方では韓国を中心とした追撃で、逃げる福島らが捕まるのか?と言うタイミングだったようだが、そこで飯島がアタックし追撃組織を駆逐。前に合流して福島のために渾身のアシストを行ったが、組織力で上を行くイランに優勝を奪われてしまい残念ながら2位だった。
福島も飯島も、そして中盤までコントロールしていた廣瀬も良い動きをしていたが、金を取ることは果たせなかった。
俺はみんなと比べて期待に応えられたのか?それはレース後の俺自身自問自答しながら時間が経過した。
大会が終了し三浦監督から「みんなよくやってくれた」と労いの言葉があり、そして俺自身にも言葉をもらったとき、自分の仕事は全うしたと胸を張って帰国しようと思えたのだった。
37歳
今までナショナルチームに選抜された選手の中で最年長。
俺自身今までやってきて選抜されたことは誇りに思うし、これからの競技人生の励みにもなる。
俺はこれで終わりにしたくない。まだまだ選抜してもらえるように切磋琢磨していきたいし、できる自信もある。
そして何より俺が頑張ることで、俺と同世代より上の世代の人の励みにもなるだろう。これからも年齢の壁は越えて行きたい。
インドネシアから始まったナショナルチーム選抜。多くの人に応援してもらい、そして多くの人のご尽力により実現したことに感謝の気持ちを伝えたいと思う。
本当にありがとうございました。
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