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No.013 シーズン最後のレース

2002年「プッテ・カペーレン」より

今シーズン、ヨーロッパでの最後のロードレースとなるのは「プッテ・カペーレン(ベルギー・1-3・177キロ)」。このレースはベルギーで行われる最終レースだ。

(ちなみにレースはベルギーオランダの国境がスタート&ゴールで、周回コースは何度も越境する)

去年このレースで130キロほどを15人ほどのグループで逃げ続け、最後は集団に吸収されて80人ほどのスプリントで11位だった。それもマークした相手はロットのエークハウト。この年のベルギー人では最多勝、セミクラッシックレースを中心に優勝を重ね世界的にブレークした選手だ。

し かしなんと最後にロットの列車から離れてしまい(他の選手に列車に割って入られエークハウトは離れてしまった)、最後の牽引役だったロットのファンスパイ ブルックが優勝(ちなみにファンスパイブルックは来期ランドバウクレジット・コルナゴで走ることが決定)、エークハウトは12位だった。

今年俺はこの最終レースで一発ドカーン!と結果を残そうと密かに企んでいた。

前週のケルメスでも逃げを作り、多くの選手にはマークされていて最後にもう一発仕掛ける力がなかった

(GPゼーレ23位、GPズウェーベゼーレは途中リタイヤ)

普通ならそこでためらい、諦めるのかも知れないが、俺は「あと一週間ある。その間にリカバリーさせてプッテ・カペーレンで好成績を残そう」と考えをポジティブに展開していた。

レースはスタートからアタックが始まり、常に集団は一列で進んでいく。

ア ントワープ郊外の原生林の中も走るため、風の影響をあまり受けない、シーズン最終レースと言うこともあり、最後のレースでドカンと決めようと最初から仕掛 ける選手が多いから、このレースは毎年異常なほどの平均時速だ。去年の平均時速は47キロだった(距離は177キロ)。

チームのエースであるファンハックは今シーズンを最後にチームを離れる。

どちらかというとチーム解雇。彼自身の性格にもよるところが多い。

年間に250UCIポイントを稼いでいながら監督はメディアに

「優勝することが出来なかったし、彼の契約金に見合う結果をもらえなかった。来期彼の居場所はチームにはない」とコメント。ファンハックは既に移籍先を探していたようだが、監督のコメントで完全にモチベーションはキレていたようだ。

スタートして1キロ後の更衣室へそのまま直行しリタイヤ・・・彼のシーズンは終わった。

レースは1時間弱のところで小休止。ここで俺は用を足す。チームカーに不必要になったジャケットを渡し集団復帰しようとテンポで走るが、これが結構きつい。「ちょっと本調子じゃないかなぁ・・・」と考えてしまうほどだ。

しかしここ数レースのパターンだが、一汗かいて初めて調子が上がる。俺はこの日気温が低かったので、膝と右肩に体温が上がる湿布のようなものを貼ってスタートしていた。もう少し集団の中で様子を見ようと、世界選手権にアメリカ代表で走ったラウダーと集団後方で談笑し体温の上がるのを待つ。

し ばらくするとデワールが「マサ、後ろについてこい」と風よけとなって集団前方へと上がっていく。「マサ、ミッシェル(ファンハック)はリタイヤした。自分 のレースをしろよ!」と言ってきた。彼とは家が近く、いろいろな話をする仲だ。去年このレースで良い走りをしたのを知っているし、この日俺が高いモチベー ションでレースをしているのも知っている。だから俺のためにこう言ってきたのだろう。俺はデワ−ルやラウダーに助けられ、集団前方へと上がっていった。

・・・レース前、監督と談笑しているときに去年優勝したファンスパイブルックが喋ってきた。

監 督が「マサ、彼とは来年チームメートだけど、遠慮せずに優勝を頂いていいぞ」と彼の前で話してきた。ファンスパイブルックは冗談のように聞き流していた が、俺と監督の間では半分以上冗談じゃないってことは、監督の喋り口調でわかる。監督との会話で、俺のテンションはいつも以上に上がっていたのだっ た・・・

デワールが数人の逃げを追うようにアタック。俺が後ろにいるのを知っているはずだし、あまりコンディションは良くないと言っていたので、それは多分俺のために仕掛けてくれたのだろう。しかし俺はついていって良いかどうか一瞬の判断が遅れ、見逃してしまった。

先頭グループは12人。

オムロープ(コールストロープ)

ヒームストラ(バンクジロローテレイ)

カペレ(マルルクス)

ファンヘースウェイク(ドモ)

などメンツは揃っている。差は2分。

「こりゃ今日のレース終わったかな・・・」と考えているとフラーンデレン、AXAが追走開始。しかし思ったように差が縮まらない。40秒ほどまで詰めながら追走軍団は空中分解した。そして差は再び2分へ。

先頭グループはどのチームも含まれているが、均等ではない。コールストロープからは2人で他は1人。駆け引きがあることを考えると、どのチームも複数にしておきたい。ここで集団ではアタックが何度かあり、16人ほどの追走グループが形成され俺も入る。

ロットからオランダチャンピオンのファンダイク、ファンデワウワーなど3人がこのグループに入り、ドモも複数いてあっと言う間に前に追いついた。ここで115キロほど、残り60キロほどだ。

「28人かぁ・・・ちょっと多いな。バラしておきたいな」そう考えていると後ろから何処かのチームが追走し追いつかれた。

集団は再びひとつになり、またもやアタックが繰り返される。

ラスト3周、ここで23人の逃げが決まる。

ジョアヒム、ボーネン(共にUSポスタル)

ガルデイン、ブラント、ファンランカー、ファンインプ(以上ロット)

クレツケンス、クナーフェン(共にドモ)

フェルヘイエン、ネイス、センチェンス(ラボバンク)

ロードホーフト、インデケウ、エングルス(RDMフランダース)

フルスマンス(マペイ)

ウィルムス(マペイ・エスポワール)

ルカッセン(AXA)

ファンデルフェン(バンクジロローテレイ)

オムロープ(コールストロープ)

デネーフ(マルルクス)

アマチュアのオランダナショナルチーム1人

ファンランデゲムと俺と言うメンバーだ。

ロットが中心でラボバンク、 ドモ、USポスタルがこれに反応する形になり、オムロープとデネーフが単品なので労力が多いが追わざるを得ないと言う形になるだろう。俺はこのグループで はファンデルフェン、ガルディン、フルスマンス、ネイス、クナーフェン、そしてボーネンぐらいしか自分と同等、もしくは優れているスプリンターがいないことを確認、少しでも脚を温存し最後のスプリントに備える。

ラスト20キロでアタック合戦となって17人ほどになり、ラスト10キロでは14人となる。

ここまで来てもまだほ本格的な駆け引きも何もない。協力して逃げ切るしかない。

ロット4人、クナーフェン、フルスマンス、ネイス、センチェンス、デネーフ、オムロープ、そして俺たち2人と言うメンバー。RDMは全員逃げ遅れたので追走している。

ロットは4人とも入っているので逃げ始めは全員で先頭へ回る。

残り7キロぐらいでクナーフェンやボーネンがアタック。ありがたいことにファンランデゲムもここに入り込む。

ラスト3キロ。俺はこの場に来てもまだ先頭に出なくて良い恵まれた状況だ。

ラスト2キロでロットのアシスト連中とファンランデゲムは千切れる。ここで8人、クナーフェンが単独で逃げ続ける。

ラスト1キロ。ようやくクナーフェンを吸収。俺は7番手。トップスプリンターの ガルデインの後ろを全員がマークしているので俺はノーマークのジョアヒムをマーク。USポスタルではボーネンをマークしている選手がほとんどなので、ジョ アヒムは意外と誰も注意が少ない。彼も良く状況を読んでいて、アタックの機会をうかがっている。俺にとってこの上ない状況だ。

ゴール前はほんの少し曲がっていて、そして向かい風

左に少し曲がって行くときにジョアヒムが仕掛けようとフェイント。ラスト500メートルほど。しかしフェイント失敗。俺はここで11Tにシフトし、そのまま先行した。

ジョアヒムが仕掛けたときにボーネンが後ろを塞いだおかげで、一瞬後が離れている。一か八か。もうここで振り返ることは出来ない。全力を出すのみだ。

ゴールラインが俺の前に見え近づいてくる。それも俺の前には誰もいない。観客が蠢いている。看板を叩いてこちらを興奮した目で見ている。その見られている対象の先頭が俺。あのラインまで、あのラインを(先頭で)超えればいい。

それは徐々に、徐々に近づいてくるもののなかなか来ない。

ラスト100メートルを切ったところで3人に差された。仕掛けるのが少し早かった。ゴールラインでは思わず声が出る。ああ!あと少しでヨーロッパのメジャーレースで初優勝だったのに!!!

ゴール後、普段応援してくれる何人かの人たちが激励に走ってやってきた。

「よくやったぞ!すごかったよ!」

しかし負けてしまった俺には素直にありがとうと言える状況じゃなかった。

俺は「勝ち」だけを見て走った。

ベルギーのチームでベルギー人と同等の扱いで活動し、そしてベルギーのレースで優勝する・・・それは日本人とか外人とかそんなことどうでもよく、「俺」として成し遂げたかったこと・・・

更衣室でもチームメートは皆喜んでくれたが、ガルディンとボーネン以外はスプリンターじゃない。最後に失速しなければ「優勝」もけっして出来ない状況じゃなかったのに・・・

だがこの成績は冷静に見て悪いものじゃない。

俺は十分世界の一流選手相手と互角に戦ったし「一か八か」のロングスプリントで「八」が出ただけだ。カテゴリー1-3のレースで4位だ。悪かろうはずがない。

サイコロを振ったから結果が出たのであって、振らなければ結果はなかった。ここから先の悔しかった部分は来年の課題にするしかない。

これで俺の今シーズンのヨーロッパでのロードレースは全て終了した。

今年は本当に「山あり谷あり」で、全て順調じゃなかった。

しかし「終わりよければ全て良し!」良いシーズンだったと胸を張って答えたいと思う。

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